東京高等裁判所 昭和39年(ネ)771号 判決 1965年7月02日
理由
被控訴人主張の請求原因たる(一)、(二)の事実、控訴人が昭和三四年四月八日原判決添付目録記載の土地、建物(以下本件土地建物と称す)を訴外多田豊(破産者)から同人に対する債権額合計金百三万百三円を以て代物弁済により所有権を取得しその旨の登記を経るに至つた経緯について、当裁判所のなす判断もこの点につき原判決理由中に説示するところと同一であるから右理由の記載(原判決第七枚表九行目から第一〇枚裏九行目まで、但し、第八枚表五行目「作成していたこと、」の次に、「控訴人は右貸金債権五十万円の担保として多田所有の本件土地につき同年一月三一日順位第四番の抵当権設定登記手続をなしたこと、」を挿入する)を引用する。
控訴人が本件土地建物につきすでに登記ある担保権(内訳、土地については合計、百三万百三円、建物については右金額のうち五十三万百三円)を有しておつた者であることは前段認定によつて明らかであるところ、担保権者がその担保の目的物を代物弁済として譲渡を受けることは、その目的物の価格が被担保債権額に相応する場合には、詐害行為は成立せず、従つて否認権行使の対象とはならないと解すべきである。
そこでこれを本件土地建物の昭和三四年四月当時の時価についてみるに、(1)当審における鑑定人影島利邦の鑑定の結果は合計金百三十七万七千円(その内訳、土地一坪当り二万円、百十三万四千六百円、建物一坪当り一万円、二十四万二千五百円)と評価していること、(2)当審における証人多田豊は本件物件の周辺において当時(昭和三四年)更地は一坪につき九千円ないし一万五千円位で売買がなされてあつた旨供述していること。(3)《証拠》 によれば、本件家屋は三十年以上経過して老朽しており、土地は一万円位、高くとも一万五千円位が当時の相場であつたから本件土地建物を譲受けても自分の貸金に比し決して安いとは思つていない旨供述していること。(4)《証拠》 を綜合するに昭和三四年当時本件周辺における土地の売買は坪一万円前後、高くとも二万二千円を超えないものであつたことが認められること。(5)《証拠》 によつて認められるように本件建物の昭和三六年度における固定資産税課税評価額が金二十七万千三百七十五円であつたこと。及び(6)本件建物に当時多田豊が居住していることは弁論の全趣旨により明らかであり、以上(1)ないし(6)の事実を綜合して判断するに右代物弁済の目的物たる本件土地建物の価格は前示被担保債権額(百三万円余)に相応するものであつたと謂うことができる。
《証拠》によれば右認定と異なり当時の時価を金三百四十七万円と評価しているが、同人の証言によれば、右価格算定方法は昭和三六年一二月当時の本件土地近辺の売買実例一件の価格(坪七万円)を基準とし全国市街地における昭和三四年二月における物価指数に基き逆算したものであることが認められるが、その証言が曖昧であるのみでなく計数上明確を欠く点もあつて到底価格認定の資料となすを得ない。その他右認定を覆えすに足る証拠はない。
してみると、本件代物弁済は破産債権者を害するものとは云えず破産法第七二条所定の否認権行使の対象に該当しないので結局被控訴人の控訴人に対する本訴請求は理由がないから之を棄却すべくこれを認容した原判決は不相当である。